他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

時に操縦桿を失うロボットで世界を守れるものか

あまりの質量に押し流されて眠気に屈服しぶっ倒れそうになると、後背に崖を臨みながら、全体重を預けて身体の支配権を放り出したくなる。どこまでも、どこまでも底なく落ちていって、気を失おうとした自覚から滲み出る甘さだけをぼんやりと感じながら背中に猛烈な風を受け、抱き止める痛烈な反作用とは無縁のままフリーフォールしていたい。そろそろ地面が近づいただろうか、と肩の向こうを覗き込んで距離を把握した瞬間の冷や汗と、肉体がある空間のジャーキング現象はほぼ時を同じくして起こる。ただの一瞬も投げやったことを後悔しながら、スプーンの光沢のように鈍った足取りを引きずる事を再開する。眠気はタチの悪いステッカーみたいなものだから、一度張り付かれるとなかなか剥がれないし、無理矢理剥がしたとしても指先にべとつきがねっとりと痕跡を残すしこちらの表皮もいくらかは必ず持って行かれて、より空気に近づいた皮膚の一部分だけがひやりとする。眠気は一秒たりともこちらに近づけるべきではない。朝起きて夜寝るまで、全く無縁のものであるのが望ましいのだ。自覚的意識がない間だけ、その瞬間だけは好きにするがいい。幅を利かせて身体の緊張を抜き取り、ふかし芋のような底なしの手応えのなさでくるんでくれればいい。布団に身体を預けてから3時間、覚醒意識の総フロー量が100から一切減る事なく、しかし眼が冴えるでもなく、ただ100が全き状態で欠けるところなく呼吸を貫いていくだけで、寝ると決めたからには他のアクションが許されないまま刻一刻とドライアイスがごとく無意味に人生の残り時間が蒸発していくのを凝視させられるのにはほとほと参った。程度としてはめちゃくちゃに、しかし状態としては依然と整然と静謐と凍った秩序の中で研ぎ澄ました金属片のようなのだから、意識と思考もどちらに与すればいいのか分からずがむしゃらに腕を振り回すばかりで、発作的に掌底でこめかみをやたらめったら強打したり、生理に唆されて罵詈雑言と悪態が口から垂れ流れるのを指を咥えて眺めながらトイレに立ったりして、それでも全面ささくれ立って針の山のようになった畳の表面で横たわるような感覚は治まらず、ちりちりと脳の端から端まで焼け跡で埋め尽くすような不眠の毒気に抗議の視線を投げかける事しかできなかった。目覚ましが鳴って、ほんの少しだけ眠れた事が分かったが、眠れなかった時間の恨みを枕の上に置き直すと、堪えようがないほどに深く暗い淵がそこに見えるのだった。