他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

グラスファイバーの山から春雨を探し出す

朝ごはんに卵黄だけを乗っけてやろうと思って、殻を用いた分離法、これが最もポピュラーな方法である、によって白身と黄身を別っていたのだが、あと少しだけ、あともう少しで完璧に分離できると色気を出し、左手に握った殻で受ける角度を調整していると、意識から投げやられた右手のチルトが大きくなりすぎ、先に逝った白身の後を追って、黄身も排水溝へと身を投げた。他では聞かない、質量の伴ったどぽんという音がして、そこには自失となった阿呆の姿だけが残された。ごめんなさいごめんなさいとうわごとのように呟きながら、新しい生卵を取り出して分離した。ヒヤリハット理論的なアレがあるが、ヒヤリがないまま事故へとつながってしまった。生卵の分離がここまでナイフエッジな作業だとは意識していなかった。起きて、しばらくすると狂奔が踊り狂う音がした。アドレナリンが止まらなくなったかのように、ヤケクソでやけっぱちで暴力的な降り方で、雨が地上をぶっ叩いていた。窓ガラスに鼻を押し付けるまでもなく、雨滴の輪郭が見え、テグスの流星群が景色を横切っていた。雨が降るとQOLが下がるが、それにしても地に落ちた地に落ちる降り方だった。行儀もマナーもあったものではない。杯盤狼藉、上を下への大騒ぎである。この天候の中を、外に出なければならないのかと思うと、足元がすでに濡れてしまったような気がする。雨が降って嫌なのは足元が濡れる事である。じゃあ、せめて靴の範囲だけでも濡らさないように努力できるのではないかと思い、いっそ用のなかった革靴を引きずり出して外に出た。玄関ドアを開けて外界とこんにちはした時点で、飛沫の残滓が肌を叩く。見渡す限りびちゃびちゃだった。足取りはヘヴィメタルだったが、しばらくしないうちに発見した。革靴だと足元が全然濡れないのである。風向きのせいでふくらはぎや鞄はびっちゃこになったが、さすが革と言うべきか、それが取り柄だろうがと言い立てるべきか、全然不快感がなかった。ただ歩きづらいだけで、爆弾ニギリみたいな光沢しやがってこの野郎と常々革靴にはよからぬ思いを抱いていたけれど、今日の暴風雨の中にあって少しだけ見直した。履物の最低次から、長靴と同じ平面までランクアップした。歩き方とフィットしないせいで足首が痛くなるのはもう仕方がないので、濡れないというその一点だけを過大評価して美点として持ち上げ、その他からは目を逸らす事にした。卵には本当に申し訳ない事をした。