他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

持てないものを武器とは呼ばない

意識が浮かび上がった瞬間に、身体の部位に感覚を覚えた。ひとつの小宇宙(コスモ)が終わった感覚を。口の中が全く正常ではない。具体的に指すと舌が二万%くらい終わっていた。口蓋をなぞってみると、自分の身体ではないような重くてざらついた違和がぞろぞろとどこまでもついてきて離れない。知覚を全て奪われたような、どこか遠くで音が鳴るだけの隔離が舌一面に張り付いていた。一瞬で思い当たった。昨日の事だとは既に思えない、思えないあたりがよろしくない気がするが、確か昨日のイベントだったはずのあれ、ラーメン屋でしこたま食ったニンニク、おそらく総量いちバルブに上るであろう香辛料の名を借りた爆裂刺激物が、私から味蕾のほぼ全てを奪い去ったらしかった。驚くほど何も感じない、手応えならぬ舌応えが口の中についている肉の板から来ているものなのかしら本当にと醒め切ってどうでもよくなるほどに彼方へと微細が吹き飛んでいる。朝ご飯として、米に辛子明太子を乗せて口に運んでみたら、我ながら自分を疑った。何の味もしなかった。超えられない壁に阻まれて、マジで本当に、嘘をつく意味がまるっきりゼロで何もないほど味を感じる事ができなかった。もしかして辛子明太子をつけ忘れたんじゃないかと思って二口三口追加してみても焼け石に水、焼け舌は焼け野原だったので、びっくりするくらいに、入力シグナルの音沙汰がない。途中から面白くなった。食事という行為から味覚というフィルタを引っぺがすと、ただただ物質を摂取するだけの無色透明で面白みのない作業になるのだなと思って面白かった。自分からやろうと思ってできる事ではない。やりたい事でもない。偶然に足をすくわれてまろびこけた後に顎を打つ小石や、見上げた時に見えるパンツが好きである。とは言え、摂食に一切の彩りが伴わないのは楽しくないのも事実なので、生ニンニクの大群によって焼き払われた味蕾村がいつ頃復興するのか不安で仕方ない。鏡に舌をえーっと突き出して写してみても、普段と変わらないというか、常軌を逸した状態だとは見受けられないので何も分からない。神経だけが入力過多で焼き切れたのか。あんな一時(いちじ)の気の迷いでこれから先味覚を失ったらワライダケでも食べなければ笑えないが、どれくらいで復調するんでしょうねこれは。これならいけるかと思い、晩飯を塩と山椒辣油で味付けしてみたら、これもまた舌の鉄面皮を通れず味信号を全く届けてくれなかったので、結構深刻にやられているくさい。明日の朝ご飯は何味なんでしょ〜か?