他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

押しが弱いので引かれても弱い

歩いていたら、黒い軽トラが停まっていた。黒い軽トラがこの世に存在する事を知らなかった。軽トラと言えば、くすんだ漆喰のような白で、無骨で絵を描いたようなあのアレをすぐに想起するのだが、黒かった。軽ワゴンにありそうな、ふっつーうの黒だった。え、黒じゃん、と思った。アクリル絵の具の黒で塗ったみたいな黒だった。そうかあ、軽トラが別に白じゃなければいけない訳でもないもんなあ、と思った。ネコみなが白い訳でもなく、豆腐みなが白い訳でもなく、消しゴムみなが白い訳でもなかった。見た事がなかっただけで、普通に他のカラーは存在するのだ。黒い軽トラは、白い軽トラから感じる刷り込まれたチープさみたいなものがなく、てかてかと黒光りしてどっしりしていた。かっこよくはないが、座りは良かった。色々疲れて、電車に乗って、ぽけ〜と車内の中空を眺めていたら、カップルが前方に移動してきた。男の顔の位置が、女の頭の位置にめちゃくちゃ近い。至近と表現してよかった。こいつ、彼女と会話しながら頭髪の匂いバキューム吸引しとんちゃうかと疑ってしまうくらい、そんな想像を許すくらいに近かった。そんなカップルを2組、短いスパンで目撃した。彼女の髪の毛を一房手に取り、鼻に持っていって匂いを嗅ぐ色んな意味でやべーカップルの記憶もフラッシュバックした。あの強烈さは忘れがたい。忘却を許さない。たまに男はバカだと言う女がいて、なるほどそうかもしんないねと他人事のように捉えていたが、今日見た実例に照らしてみる限り、確かに男はバカだった。欲望から出されたサインに忠実に従って真芯どストレートを投げるピッチャーのようだった。このバッテリィは崩しがたい。女の子の頭部に頭を埋めて匂いを嗅ぎたいという私の数ある煩悩のうちのひとつは、全く特殊なものではないらしいと思われた。確かに、ある範囲で男はバカである。で、横に座っている人がうつらうつらして、頭部がままならなかった。また昔の記憶がフラッシュバックした。街の方で模試を受験した、高校生の時分の帰り道である。マイナーな地方線で、模試終わりの午後微妙な時間、車内はゆとりがあった。席が埋まるか埋まらないかくらいには。総合的な理由と判断により、隣に女子学生が座ってきた。私は日本史の教科書を読んでいた。じきに、うつらうつらが爆睡に変わり、私の肩に人の頭の重さが一つ分、無防備に預けられてきた。あの時胸中に去来した万を超える億感の思いは、一生を尽くしても表しきれるものでもないだろう。日本史の教科書に書いてある事など、世界で一番どうでもよかった。普通に目覚めて、普通に降車して行った。あれが、私の知る人の重さの一例である。