他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

タテ真一文字斬り

二日連続くらいで剃刀負けしたのでびっくりした。今日は、ほんの少し、軽く掠めると言うのも勿体無いくらいのフェザータッチで通り過ぎただけなのに、「ぷちっ」という肉の弾ける音が聞こえて、顔から何かがたらたら垂れる感触があった。シャワーを浴びたら痛え痛え。剃刀の傷は、直ちに染み込んでくるからとても直接的で正直だ。剃刀といえば、筒井康隆の『笑うな』だったかに収録されていたはずの、家に警官が来て話の途中で目玉を横に剃刀で掻っ捌かれる短編を思い出すのだが、詳しい事は忘れてしまった。どこかのタイミングで、思い出にある短編集を全て買い集めてしまってもいいかもしれない。高校の図書館に行けば、どれを読んでそれに何が入っていたのか経験に紐付けられているからとても分かりやすいのだが。「乗越駅の刑罰」は、『将軍が目覚めた時』、正確なタイトルは漢字が違うかもしれないが、これに所収されていたはず。剃刀負けではなく、ただの刃物取り扱い下手くそ野郎なだけかもしれない。とりあえず、肉の「ぷちっ」という音だけが鮮明に耳に届いて、耳に残った。実際はそんな音はしていなくて、ただ悟った負傷に対して直感的に、脳が錯覚させただけかも。ティッシュで拭い続けていたら血は止まった。バスタオルには赤い斑が点々とついた。あるマンションだか貸しビルだかの一階裏口に、車なり自転車なりが辛うじて一台停めようと思えば停められる程度の空きスペースがあって、その前に赤いパイロン(三角コーンの事をそういえばそう言うんだよな)で禁止が敷かれ、「関係者・車以外/駐車禁止」の張り紙がぶら下がっていた。この、<者・車>という部分に大いにシビれた。なるほどと。関係者は普通の語彙にある、関係車は普通の語彙にはない。その運転手でもって全体を代用されるからである。そこをわざわざ尋常から歩を踏み外し、車のエレメントを析出してみせたところに、掲示者本人にはそんな意図ないだろうし表現の領域を明らかにしたいだけだったのだろうが、妙味を感じて喜ばしく思った。向こうの人生で一回も使う事はないだろうが、レパートリーのひとつとしてレジストリに入れておく分には価値あるものではないかと。16時くらいの屋外を見て思った。あ、この時間はもうまだ明るいんだ。文庫に収録するときは、「もうまだ」の部分に傍点を振らねばなるまい。ナウい書籍では傍点の使い方がよく分からないが、古い岩波なんかを読んでいるとシブい傍点が出てきてすげえなと思う事がある。