他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

初めてを捨てる時に泡が伴うのは二度目

寝る時、布団に身体を置いてから必ず行うルーチンがあるのだが、その一つに「枕を殴る」がある。漫画や小説では「叩いて綿を整える」的な表現が多いが、私はそんな事はせず、グーを握りしめて思いっきり数発殴る。ぼすっ、ぼすっ、ぼすっ、と空っぽの音が返ってくる。日常の中で働く、ただひとつの暴力かもしれない。ぽんぽん叩いて整うほど上等な綿は入っていないし、そもそも綿なんて入っておらず化繊がみっちりと押し込まれている。話が通じなければ、その後の手段はいくつかあるが、その中からグーパンチを選んでいる。これくらいするとようやっと整うのだ。手にニベアを塗って寝る。寝ると言うか、横になるだけだ。なかなか寝られない。寝付きが悪く、今日もきっとそうに違いない、と思いながら昨日は掛け布団を引き上げながら身体を倒した。就寝の挨拶を、誰にというわけではないがぼそっと口にする事にしている。「おやすみたい」という聞いたことのない言葉が零れた。自分の言った言葉を頭の中でもう一度反響させ、文字に起こして自覚してみた。やっぱり「おやすみたい」と言っていた。おやすみなさい+寝たい=おやすみたい。覚醒した苦し紛れの脳味噌は、ヘンテコな造語を産生して寄越したのだ。おやすみたい。おやすみなさいを熊本弁で言うと、こうなったりしないだろうか。寝られないなりに、新しい言葉に出会った。「ホームパイのみみ」という商品が発売されている事を知った。カプリコのあたまに代表される、「人気お菓子の人気がある部分をフィーチャーした商品」も来る所まで来たようである。そもそも、ホームパイなんて全面みみみたいなものだ。パラパラのベビースターラーメンと、ほうとうみたいな面のベビースターラーメンの間にある違いくらいしかそこには認められない。ある島の住人が、「私たちは沿岸部の住人です! 内陸部の人たちとは違うんです!」と言い出したかのような感じがある。一緒じゃないか? 「まあいいか」と「もういいや」が同時に閾値に達したので、人生で初めて金を払って髪を切ってもらいに行った。「このくらいにしてください」の資料にしたのが2年前の証明写真なので、一度襟足にハサミを水平に走らせた以外はついぞ手を入れなかった事になる。色気のあるところではなく、ただ髪を切るためだけのところに行った。というか、そこ以外はビビって入る勇気が湧いてこなかったと言うのが適切である。ばっさばっさ髪が落ちていくので、眼鏡を外してぼやけた視界で見ても面白かった。色々メニューがあって、何も言わなかったらフルコースでシャンプーと顔面剃毛までされた。しかし、面白かった。3回くらいよく分からない液体で頭を洗われ、ブラシで頭皮をゴシゴシされた。本当にシェービングクリームを塗った後にあったかいおしぼりをかけられるんだなと知った。おしぼりの下で、シェービングクリームの泡がぷつぷつと弾けていく音は、まるでホットケーキを焼いているようである。襟足やもみあげの短くキワにある毛は、カミソリで落とされる。ヂッ、ヂッ、という音が恐怖と快感を同時にもたらす。肌に冷たいハサミの金属が触れるたび、心臓の付近を言いようのない、絶頂に近い電流が走り抜ける。喉をカミソリで掻っ切られた男が、死の瞬間射精する小説の描写は、確かに間違いではないのかもしれないと思った。