他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

同じ理由で黒いゴミ袋もあまり好きじゃない

二週間くらい前の出来事だが、頭にこびりついているので書く。滅多に横断する事のない大通りで、私は信号が変わるのを待っていた。車通りが多く、信号が青に光っている時間が短い。そばの店でジュースとアイスを買って表に出た瞬間に赤になったので、しばらく待ちぼうけだった。暮れようとする空の、微妙な透明度の青を見ながら、ぽうっと視線を上に投げていた。車通りが多いところ特有のデカい信号機がある。その上に、カラスが一羽、止まってどこかを睨みつけている。カラスの輪郭と、その身を覆う黒は、思いつく限りで一番質量の伴った、戦慄を感じさせる力強さを持っている。ゴミ捨て場にうろつくカラスから匂うエネルギーに当てられると、後ろに数歩退きたくなる。硬そうなクチバシが、ぎっしりと締まっていそうな肉が、体毛の中から光る眼光が、脅しつけているような気がする。カラスがいる、と思った。周りにはちらほらと他のカラスも見え、連れ立って食べ物を漁りに行くところだろうか。赤信号の残り時間メモリがひとつくらいになったところで、不意にカラスが飛び立った。足元の機械を踏みしめ、羽を広げて繁華街の方へ向かっていく。踏み切り地点にされた信号機は、カラスが出立する瞬間、その体重に踊らされて、目に見えるほど揺れた。ぐっ、ぐわんぐわん、という音が聞こえるかのようだった。青信号に変わり、横断歩道を渡りながらなお、あの黒い鳥の体重が残した物理現象に目を奪われていた。以上。私も、カラスに蹴っ飛ばされたらよろめくと思う。被害妄想的に感じたあの質量は、間違いなくカラスが持っているそれだったのだ。家の前の集合住宅入り口に、突如として台所用品が置かれたままになっている。ゴミ捨て場は数十メートル横手にあるのに、これはどうした事か、と思って品々を見てみた。蓋つきフライパン。茶碗。皿。炊飯器。エトセトラエトセトラ。えっと、けーてら。雨に打たれてよれよれになった段ボール箱には何も書かれていないが、これは恐らく、おばあちゃんがいる家で稀に開催されている「ご自由にお持ちください」コーナーなのだと推察できた。風雨にさらされる前から染み付いているのであろう生活の跡を茶碗の色合いなどに見て取ると、あんまり持って帰る気は起きない。きわめつけは炊飯器で、私はtake for freeの炊飯器を未だかつて見た事がなかった。操作盤に残るホコリと水垢を見ると、確かに人が使ったものなのだなと思われた。こういう品が不要になる事態に思い及ぶには、想像力が乏しすぎる。