他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

前例はないが前々例はある

ほんの一瞬だけ晴れ間が見えて、やったぜ洗濯物がカピカピに、バリバリに乾かせるチャンスだと心が踊ろうとして、運動不足が祟って足をもつれさせてこける音がした。滅多にないとは言い過ぎだが、二週間ほど疎遠だった屋外で物干しができるチャンスだったから、寝る前に塗るハンドクリームが染みて黄色い軟膏みたいに変色してしまった掛け布団のシーツと枕カバーも一緒に洗う事にした。脱水の工程になって、鉄檻に閉じ込められた猛獣が所狭しと暴れまわるような、ガッタンガッタンドッコンドッコンガンガンズンズンベンベンバキンバキンという破壊音が洗濯機の方から聞こえてきた。耳を覆いたくなるような、とっちらかって自制のない音であり、使い始めて5か6年目、ついに耐用年数をオーバーしたのかと心中ヒヤヒヤしたものだが、そういえばシーツのような大きな面積で広がるものを入れると、そいつが他の洗濯物を抱き込んでひとつの巨大なカタマリを成し、脱水行程の猛烈なドラム回転に慣性の法則とかなんかその辺のものが素っ裸になって乱入する結果金属と金属の痛ましいぶつかり稽古が繰り広げられるのだと思い出された。一斗缶を踏みつけて、金属バットでぶん殴り続けているような音で、原因を知ってはいても心がざわざわと浮き足立つような、極めて極まって不快な音だ。録音してノイズを除去しなかった挙句、嫌いな奴の枕元で一晩中流したいくらいには快ならざる音だ。洗濯が終わって、もりもりのボリュームを成した布や化学繊維のお団子おにぎりを解きほぐして、さーてハンガーにひっかけようかなと思ったら太陽は厚い雲の向こうにかくれんぼしていて、白と銀を羅紗に透かしたような、曇り特有の光線で屋外が満たされていて、さっきまでの高揚と期待を返してくれないかと思った。返ってこなかった。しんなりとした手触りがまだ残っていて、お世辞にも乾いているとは言えない状態でcruciateされた洗濯物が、葬列に見える。見えない。どっちだ。虚無の軽さを背負って重さを感じようとする事に疲れたので、なんとなく肉がいっぱい食べたくなって、冷蔵庫の鶏もも肉を2ポーション解凍した。イギリスの塩もついに底をついたし、何かいい調味料あったかしらと思って棚を漁ると、買ってきたのを忘れていたホアジャンと唐辛子の生七味ペーストが出てきた。サルサソースみたいな色をしているが、少しスプーンに取って口に含むと、強烈に渾然一体となった風味がぶあっと駆け抜けて、舌に渋いタイプの足跡を残す。使い所を選ぶ、なかなかおもしれーやつだった。