他愛がない

日記が置いてあります。タイトルと中身はあまり関係ありません。短編小説も書いてます(https://kakuyomu.jp/users/mezounagi/works)。 twitter:@mezounagi mail:mezounagi★outlook.jp(★→@)

ジャムを壁に塗る

燃えるゴミを捨てた。まだスペースはあったが、夏季にゴミを出し渋る事のリスクを実体験している身としては、早々にリスクヘッジが必要だと判断し現行のゴミ袋も捨てた。リスクヘッジの意味は今だによく分かっていない。玄関に放り出していたゴミ袋を持ち上げると、なにかこんもりした、ふわっとした物体が落ちているのに気が付いた。ゴミ袋の底が破れているわけでもないから、外因的な何かなのだろう。寝ぼけ眼をぐっと近づけて見てみると、悲しい事に悲鳴を上げるほど感受性は残っていなかったが、理性の深いところで嫌な音は聞こえた。ちょうど親指一本ぶんくらいの長さ太さを誇るそれは、まず第一に埃の塊だった。玄関のドアを開けるたびに、ゴミ袋と気流の関係がなんかいい感じになり、ちょうど背後に隠れるようにして、埃のコロニーが形成されたようだった。ここまではいい。ただ埃が堆積しただけという、可愛らしい話だ。問題はその特質であり、埃の中にぷつぷつと混じっているもの、その正体がきもちわるかったのだ。発酵に発酵を続けて独特の臭気を放ち続けるゴミの総体に惹かれたハエが産みつけた卵が孵化し、爆裂に生誕した蛆の死体が無数に絡まっていたのだった。あそこまでフェーズの進んだゴミから蛆が湧かないはずはなく、しかし玄関のどこにもその姿がないため、もしかすると袋の中でみなみな軒並み死んでいるのかと思ったが、一応進出はしていたらしい。ただ、そのリーチが圧倒的に短かっただけで。埃と枯葉の欠片のようなものが一緒くたになった塊は、秋冬、乾いた路肩でしばしば見かけるが、こんなタイプは初めて見た。ただただ、微細が積み上がって不快だった。表情は動かないが、感情が不快との結論を出すだけの、そんな不快だった。傘を差そうと、ゴミ袋を2つ片手に持って悪戦苦闘しながら玄関ドアを開けると、ヒンジ部分に隠れるあたりに、もうひとつ、小さい蛆・埃コンプレックスが形成されているのが確認できた。最近、玄関口でうろちょろする蟻をよく見かけるようになっていたのは、蟻が蛆の死骸を目当てにぞろぞろ続いていたからだったようだ。どう掃除すればいいのか、表に掃き捨てるでも、植栽のあたりに放るのでも、門を出たすぐにある下水道に落とすのでもいいのだが、日常の中にありありと浮かび上がったグロテスクな物体に、迷っている。そして同時に、これにWirklichkeitを、あるいはdas wirklicheを感じた。